神奈川県総合リハビリテーションセンター

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疾患別ご利用ガイド

二分脊椎

二分脊椎症とは

神奈川リハビリテーション病院は様々な障害を抱えた方々が利用されていますが、開設以来、二分脊椎症の方の受診もかなり多く、幼児から60歳代までの幅広い年齢層の方が通院されております。
二分脊椎症は、生まれながらにして脊椎(背中の骨)の形成不全があり、また同時に脊椎の中にある脊髄の機能が障害を受けている先天疾患のひとつです。脊髄は大脳からの指令を体中に伝える神経の束と、この働きを調節・制御する神経細胞からできている重要な器官です。生まれてまもなく脊椎の異常を修復する手術を受けますが、下肢の運動と知覚の麻痺や、排泄(排尿・排便)の機能障害が残ることが多いのです。また水頭症という大脳の障害を合併し、脳外科での対処を必要とすることもあります。障害の状態は、車イスが必要な方から、歩いたり走ったりすることは問題なく排泄の障害だけがある方まで様々です。

二分脊椎症では、下肢の麻痺に対しては車イスや歩行のための装具や杖をうまく使えるようにリハ訓練を受けることが必要ですが、時には麻痺に伴う下肢の変形や褥瘡に手術で対処しなければならないこともあります。また排尿障害に対して適切に対処しなければ、腎臓の機能の低下を来たすという重大な問題を引き起こす危険性があります。排便に問題を抱える方も少なくありません。水頭症の状態も時々チェックが必要です。
このような多岐にわたる障害に対して、泌尿器科・脳神経外科・整形外科・小児科・リハビリテーション科・外科(消化器)などの診療各科によるケアーが必要となります。また、日常生活や社会生活をサポートするために、理学療法士、作業療法士などによるリハ訓練をはじめ、看護師、臨床心理士、ソーシャルワーカーが連携をとり積極的に取り組んでおります。

泌尿器科と二分脊椎

二分脊椎症の方が最も頻回に受診される必要性があるのは、泌尿器科です。排尿の障害に対しては間欠導尿という方法がよく用いられますが、これを続けるためには定期的な受診が欠かせないことと、膀胱の機能障害は腎臓にまで影響を及ぼすことがありますので、定期検査を受けることが必要なためです。当院には膀胱機能検査の最も精密な機器が設置されており、経過を詳細に追うことが可能です。
しかし、こうした適切な対処を行っていても膀胱機能障害が進行し、手術が必要になることもあります。当泌尿器科では、約15年前から膀胱拡大術という治療方法を導入し、多くの経験を蓄積し良好な治療成績を得ています。
排尿障害に関しては、十年あるいは数十年先のことを見据えたケアーと治療が必要であると考えています。排尿ケアーという立場から、生涯のお付き合いをしていこう、ということをモットーに日々の診療にあたっております。

脳神経外科と二分脊椎

二分脊椎は背髄の先天奇形のひとつです。その程度にもよりますが、脳神経外科、泌尿器科、整形外科の手術が必要な病気です。脳神経外科で必要な手術について説明したいと思います。

① 脊髄髄膜瘤閉鎖術

二分脊椎で生まれつき腰の背椎が閉鎖せず脊髄と神経が背中に露出した状態が脊髄髄膜瘤(せきずいずいまくりゅう)です。髄膜炎の危険があり生後すぐに閉鎖術が必要となります。神奈川県では県立こども医療センターや大学病院等で行われます。

② 水頭症に対するシャント術,シャント再建術

水頭症CT画像
上のCTは左が水頭症で右が正常です。
水頭症では脳の中央の髄液を貯める脳室が拡大して脳を内側から圧迫します。
80%の症例で水頭症を合併するため髄液のシャント術が必要となります。通常は生後1ヶ月以内に行われます。外径2mmの管で脳とお腹を結び余分な頭からお腹に髄液を流します。シャントはシリコン製の人工物であり数年から20年で詰まったり切れたりします。シャントが流れなくなると脳の圧が上がり、頭痛や嘔吐が出現します。そうなりますと緊急でシャントを修理する再建術が必要となります。また、身長の伸びに合わせてシャントの管の長さを延長する必要があります。シャントを流れる髄液の量はバルブでコントロールしています。バルブの圧、流量は外から特殊な装置を用いて変えることができます。最近ではシャント以外の神経内視鏡を用いた手術方法(第3脳室開窓術)も可能な場合があります。第3脳室開窓術が行えれば、シャントが必要なくなります。全例にできるわけではありませんが、画期的な方法です。当院でも神経内視鏡専門医がおり実施することが可能です。

シャントバルブの写真
シャントバルブです。中央の時計のような部分でバルブの圧を外から磁石を使って変えられます。

神経内視鏡の写真 神経内視鏡です。外径が4から5mmです。基本的な構造は胃カメラと同じです。

③脊髄脂肪腫摘出術,脊髄係留解除術

成長期に問題になるのが、脊髄脂肪腫、脊髄係留症候群(せきずいけいりゅうしょうこうぐん)です。腰の部分で癒着した背髄は身長の伸びについて行けずに引き延ばされます。足や膀胱・直腸に行く神経が引き延ばされてその機能が低下すると、転びやすくなる、尿を漏らすようになるなどの症状が学童期や思春期になって出てくることがあります。脂肪腫を摘出して脊髄下端の癒着を剥離することで症状が改善します。当院では、足の筋力、肛門括約筋の状態を電気的に測定しながら安全に手術を行うことができます。

腰椎MRI画像
腰椎のMRIです。左が正常、右が脊髄脂肪腫です。正常では第1から第2腰椎の高さに脊髄の下端があり(黄矢印)、その下は馬尾神経となり坐骨神経に繋がります。右の脊髄脂肪腫では脊髄下端が第2仙椎S2にあり脊髄が下まで引き延ばされています。白いのが脂肪腫です(赤矢印)。

④その他

側弯症に伴う脊髄の変性により脊髄空洞症を来す場合もあります。これは脊髄に無理な力が働き、脊髄の中に髄液が貯まってしまう状態です。脊髄空洞症も手術が必要となる場合があります。
二分脊椎は先天奇形ですが、成人でも症状が悪化する場合があり、最低でも年1回の脳神経外科の診察と検査をしておいた方が安心です。当院では泌尿器科、整形外科、リハビリテーション科、小児科などと協力して子供から大人まで二分脊椎の治療が行える数少ない病院です。

脳神経外科 所 和彦

看護と二分脊椎

絵本の一部
二分脊椎のこどもの多くは排泄に障害を持っており、排泄の自立や合併症予防に対する指導が大切になります。
就学前のこどもの排尿の自立に対しては、清潔的間欠導尿(CIC)を用いて積極的に取り組んでいます。CICの手技は1週間程度で習得が可能ですが、習慣化していくためには、本人が理解し行動していくことが必要になります。当院では、CICの手順や合併症予防に大切な生活をわかりやすい絵本にして動機づけに役立てています。

CICの手技の習得については、それぞれのこどもの理解力や運動障害の程度を考え、こどもに適した自立への援助を工夫しています。こどもの理解に合わせた関わりができるよう、臨床心理士と相談し学習方法について検討することもあります。文字や時間に対する理解が苦手なこども、集中力が続かないこどもなどは時計の絵を描いて説明したり、手順どおりにきちんとできたらシールを貼ってほめたり、遊びの時間との兼ね合いを考え、保育士と調整したりと工夫の方法はさまざまです。運動機能に障害がある場合は、便座への移動や着替えがどの程度できるかにより、車いす上でのCICや衣服の改良などもおこないます。

排尿だけでなく、排便の管理も大切なことです。家庭生活や修学旅行の準備として排便の自立や排泄時間のコントロール、介助方法の指導などの支援もおこなっています。
いずれも医師や他部門との情報交換を行い、こどもに合う方法が検討されます。また、学童に対しては、両親だけでなく教員や介助員など学校関係者への指導も行い、学校での排泄にも配慮した関わりをしています。

絵本の一部
絵本の一部

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