神奈川県総合リハビリテーションセンター

文字サイズ

疾患別ご利用ガイド

脊髄損傷

当院の特徴について

脊髄損傷の原因はかつては労災や交通事故が多く青壮年層に多発していましたが、近年は転倒など比較的軽微な外傷による高齢者の受傷が増加しています。脊髄が損傷することによる影響は手足が上手く動かせない事のみにとどまらず、排尿・排便機能や生殖機能の障害、自律神経の障害などさまざまな症状が現れるため、整形外科やリハビリテーション科以外に泌尿器科や内科・精神科など多くの診療科の連携が必要です。当院では昭和48年の開設以来、診療の柱の一つとして脊髄損傷のリハビリとその合併症の治療に力を入れてきました。

リハビリテーション科

診療科として、リハビリテーションの処方、痙性の治療や装具など福祉機器の処方を行います。

内科

脊損者における生活習慣病に対する治療を行います。

泌尿器科

排尿障害に対しての治療を行います。特殊な排尿検査も実施します。

小児科

小児の脊損患者の診察を他の診療科と連携して行います。

看護部

もっとも生活場面に近い専門職として、障害に適した看護を実施するとともに、患者さまやご家族への支援を行います。

リハビリテーション工学科

車いすをはじめとする福祉機器の研究開発や、身体に合った適切な車いすが提供できるようシーティングなどの臨床サービスを行います。

理学療法科

残存機能を最大限に活用できるよう、社会復帰のためのプログラムを実施します。HAL®やRewalkの活用などロボットリハビリテーションも実施しています。

作業療法科

患者さまのライフスタイルに合わせた支援を行います。バストイレ入浴評価システム、ドライビングシュミレータといった機器の活用により、日常生活動作の獲得、社会参加へ取り組みます。

総合相談室

復学や復職に関する支援、ケア環境の調整、経済的な課題への支援など、社会生活を送る上での不安や課題に対し、患者に寄り添い支援を行います。

体育科

体育館やプールでのダイナミックな運動を通し身体能力の向上、体力の維持向上を行います。また、様々な障害者スポーツの紹介も行い、社会参加につなげます。

職能科

復職や新規就労を目指す方に対し、入院中より就労支援に関わり、必要な就労支援をリハビリテーションのステージに沿って継続的に実施します。

褥瘡対策チーム

医師、皮膚排泄ケア認定看護師を中心とした多職種が連携し、褥瘡の予防、治療に取り組んでいます。

入院時の治療について

合併症として入院治療する事が多いのは、褥瘡と尿路感染症です。
脊髄損傷者の褥瘡は、社会生活へ早期に復帰するためにも手術の対象となる事が多く、意識障害のある高齢者などのものとは異なった考え方が必要です。
予防が最も大切な事は言うまでもありませんが、発症してしまった場合は速やかに治癒できるよう努力しています。

褥瘡の治療法には保存的治療(手術以外の治療)と手術による治療があります。保存的治療の基本は除圧(褥瘡への圧迫を避ける事)であり、軽症の場合はこれだけで治癒しますが、車椅子に乗れないなど脊髄損傷者にとっては困難な場合もあります。
また保存的治療では治癒に時間がかかりすぎる場合も多く、早めに手術に踏み切る判断が求められます。手術は褥瘡とその原因となった骨の突出を切除し、切除後の欠損を周囲の皮膚などで覆う事が基本となります。多くの場合は1回の手術によって治癒しますが、なかには2回以上の手術をする場合もあります。
手術によって治癒しても再発しない訳ではないので、予防は常に必要です。

脊髄損傷者の褥瘡の手術

一般に褥瘡は保存的治療が主体で、手術適応はあまりないとされます。
しかし、脊髄損傷者(以下脊損者)の褥瘡は、寝たきりの高齢者などに発生する褥瘡とは異なった考え方をする必要があります。脊損者では褥瘡を除けば健康で、褥瘡が社会生活への大きな阻害因子となる事が多く、また脊損者では痛覚脱失例が多いため、褥瘡が重症化しやすく、長期間を要すれば保存的に治癒する例もあるが、患者及び病院側の社会的事情などから現実的でない事が多くあります。このため多くは手術を要する事となります。
手術の適応は、他の手術と同様で、全身状態が許せば、保存的治療に抵抗するものとなります。必ずしも褥瘡の深達度や大きさとは関係しません。
術前処置として、膿瘍形成があれば切開・排膿し、壊死組織は切除・デブリドマンします。局所の炎症を沈静化してから手術を行います。培養検査を数回行い、起炎菌を同定しておきます。

術前の培養検査をもとに、術中・術後に感受性のある抗生物質を使用します。褥瘡の手術は感染症の手術であり、抗生物質の使用は、その他の手術に対する予防的投与とは異なる事をよく認識する必要があります。
手術は感染病巣の除去の目的で、肉芽・壊死・瘢痕組織を可能な限り切除します。仙骨部以外は原則的に骨切除を行いますが、坐骨の全切除は再発時に会陰や股関節に発生し、治療が困難になるので安易に行うべきではありません。褥瘡切除後の欠損は、単純縫縮・局所皮弁・各種筋皮弁・筋膜皮弁などを用いて閉鎖します。術式の選択は、褥瘡の大きさや既往手術の術式・回数などを考慮して行います。

術後は原則として、クリニシステムとよばれるセラミック流動ベッドを2~3週間使用します。このベッドは体位交換の必要がなく、術創を圧迫しないので有益です。当院では7台使用しています。術後3週で座位、4週で車椅子乗車を原則としています。ただし、必ずしも1回の手術で治癒するわけではなく、再手術を要する場合もあります。
平成13年から17年の5年間に、当科で手術した坐骨部褥瘡156例のうち、初回手術で治癒したのが146例、一次治癒せずに再手術を要した例が10例で、再手術率は6.4%でした。

1973〜2006年 褥瘡手術部位別割合(総数2182件)

褥瘡手術部位別割合の図

整形外科第二  渡辺 偉二

Page Top