神奈川県総合リハビリテーションセンター

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脊髄損傷

内科

脊髄障害者における生活習慣病

脊髄障害者の特殊性

脊髄障害では受傷後に一般的に以下のような変化がみられます。

  1. 立位、歩行等からの隔離→筋肉量減少・脂肪量増加→骨粗鬆症
  2. 自律神経障害→低血圧、膀胱直腸障害、過反射による昇圧(高血圧)
  3. 関節運動の減少→関節拘縮
  4. 麻痺領域の血液循環低下→浮腫、下肢の静脈血栓症
  5. 感覚脱失→褥創
  6. 低身体活動→生活習慣病→心・脳血管障害

 内科的な変化としては、1、2、4、6の問題が挙げられます。なかでも、特に6が重要で、脊損者では歩行が出来ないため身体活動性が低く、車椅子操作等による上肢運動に終始してしまいますので、生活習慣病が進行し易くなります。肢体不自由が故の「運動不足」や消費するカロリーの割に「食べ過ぎ」といった事態から生じる最近話題の内臓脂肪蓄積が起こりやすくなっているのです。

内臓脂肪蓄積

「肥満」、「高血圧」、「高血糖」、「脂質異常」といった動脈硬化の危険因子を複数に併せ持った状態は「メタボリックシンドローム」と呼ばれ、命に関わる重大な疾病になりやすい危険な状態と認識されていることは既によくご存じと思います。これらの危険因子は自覚症状がないことも多く、危険因子が幾つか重なると、たとえ一つ一つの程度が軽くとも、本人が知らないうちに動脈硬化が進行し、「脳卒中」や「心筋梗塞」など重要な疾病を引き起こします。
現在、この危険因子のなかでも「肥満」の存在が最も重要視され、肥満すなわち脂肪の蓄積が「高脂血症」、「高血糖」、「高血圧」を誘導していると考えられています。

「食べ過ぎ」や「運動不足」などの生活習慣に問題点があり、「肥満」から「インスリン抵抗性」を経て、次々に様々な重大な疾病が起こってくる状態が、あたかもドミノ倒しの様であることより、この連鎖を「メタボリックドミノ」と呼んでいます。神奈リハ病院の研究において、脊髄障害者ではこの内臓脂肪蓄積がよく見られることが判明しており、受傷後数年でメタボリックドミノの最初の段階が始まっていると考えられるため、健常の方よりも厳重な注意と管理が必要となります。

ウエスト径が男性85cm、女性90cm以上の脊髄障害の方は、「脂質異常」、「高血糖」、「高血圧」などの他の危険因子を併せ持っていないかどうかのチェックを最低1年に1回は行った方がよいでしょう。
例え40~50才以上でなくても20才代から、この変化が生じることがありますので、年齢に関係なく受けられた方が良いと思います。

脊髄障害者における高血圧

以前、当院にかかわっている522人の脊髄障害者の調査では、Th5、6番を境に、それより高位損傷の完全脊髄障害者にはいわゆる本当の高血圧患者(本態性高血圧患者)が1人もいないことが判明しました。一方、Th7以下の脊髄障害の方には高血圧の罹病率は13~25%と一般人と変わらない頻度でした。
Th5、6より高位の障害で、例えばC6頚髄障害の方で血圧が高いという脊損者がいれば、自律神経過反射による一過性昇圧か、慢性腎不全などによる2次性高血圧症か、また、損傷自体が不全である可能性が高いことになります。

血圧の乱高下(著しい血圧上昇や逆に血圧下降が同じ日に認められること)があれば、自律神経過反射を疑います。脊損者では、多くは褥瘡、尿路疾患(膀胱充満・結石)、直腸充満によることが多く、これらのチェックが必要となります。血圧が高いからといって、安易に検査もせずに降圧剤を服用されますと、万が一にも自律神経過反射による一過性昇圧の場合、ショックになることもありますので、注意が必要です。

脊髄障害者における耐糖能障害

当院で脊髄障害者を対象に糖負荷試験を行いました。一見、正常と思われた101人が、正常者は21%だけで、糖尿病型が16%、境界型(糖尿病予備軍)が63%となり、なんと80%弱が耐糖能異常という結果になり、脊髄障害者における耐糖能障害の多さに驚かされました。
さらに、上記対象者101人のうち97人に腹部CTスキャン検査をおこないましたところ、64%もの脊髄障害者に内臓脂肪蓄積が認められました。脊髄障害者では内臓脂肪蓄積傾向が強いこと、内臓脂肪蓄積と耐糖能障害との相関性が強いことがわかってきました。

脊髄障害者のBMI

上記97人のBMIと内臓脂肪面積を比較したグラフをみると、一般の人のBMIの正常値は20から25未満で、22がもっともベストな体重といわれておりますが、脊髄障害者の人ではBMI=22でも内臓脂肪蓄積の人がたくさんいることがわかります。内臓脂肪蓄積の観点からは、すなわち動脈硬化予防からは脊髄障害者の人で、BMI=22というのは、かならずしも健康的あると云えないことになります。

このように脊髄障害者では、肢体不自由のための体組成変化が生じ、そのため生活習慣病においては極めて不利な状況に置かれておりますので、この特殊性をよく認識しての相談や検査、治療が必要になりますが、当院では、全ての内科医師がこれらの問題を十分に認識しております。

脊損者のBMIと内臓脂肪面積比較グラフ

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