神奈川県総合リハビリテーションセンター

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変形性股関節症

リハビリテーション工学科

変形性股関節症 歩行分析

変形性股関節症の歩行分析(リハビリテーション工学科)

図1 臨床歩行分析の流れ
図1 臨床歩行分析の流れ

歩行計測の様子
図2 歩行計測の様子

「歩行分析」とは何でしょうか?「分析」という言葉を広辞苑で調べると、そのひとつに「ある物事を分解して、それを成立させている成分・要素・側面を明らかにすること」とあります。変形性股関節症でいえば「なぜ、その歩き方になるのか?」を科学的に調べ、運動学や力学の側面からその要因を明らかにすることにあたります。

とは言っても、「実際はどうなの?」と感じられたことと思います。図1は当院における歩行分析の流れを示したものです。股関節に障害を持たれた患者さまについて主治医らが分析の必要性を判断し、リハ工学部門へ計測・分析の依頼をします。

計測では図2のように、患者さまの身体の動きを調べるために、関節中心にあたる部分に発泡スチロール製の軽くて小さなマーカー(直径14ミリほど)を貼り付け、7~8メートルの歩行路を数回往復していただきます。その間の脚にかかる力は床に埋め込まれた床反力計測装置で、関節部の動きは天井に取り付けられた8台の3次元座標計測用のカメラで計測します。

このようにすると、患者さまが右脚にはどれくらいの力を、また、左脚にはどれくらいの力をかけて歩かれているのかが正しくわかります。同時に身体の左右の揺れや上下の動きなどを、1ミリほどの精度でしっかりと捉えられます。そして、これらのデータを長年の研究で開発した専用プログラムで分析し、その分析結果をもとに主治医や担当の療法士らと総合的な歩行評価を行って、治療・訓練に役立てています。

図3は数ヶ月間の月平均の歩行計測件数です。対象の患者さまは図に示した他に、片マヒの方、脳性・脊髄性マヒの方など多岐にわたりますが、当院での股関節障害の方への活用度の高さがよくわかります。
図4には歩行計測データの一例として、スティック図と呼ばれるものを示しました。これは3次元座標計測用のカメラで計測・処理したものですが、脚の運びのスムースさなどがはっきりと読みとれます。さらに、これらをコンピュータでもう少し計算すると、関節角度の変化を知ることはもちろん、脚の力のデータと合わせて計算することで、観察では得ることのできない「関節内部で作用する複雑な力」を推定することができます。これらは術後のリハビリ訓練での快復度合いを知るために利用することはもちろん、脚を切断された患者さまの義足の適合具合を調べたりする時の大きな力となっています。

月平均の計測件数
図3 月平均の計測件数

身体右側面のスティック図
図4 身体右側面のスティック図
(右側変形性股関節症の定常歩行:1/60秒ごとの関節点位置を実線で結び、連続表示したもの。)

障害歩行の分析は健常な方々のそれとは異なり、「たいていの方々の歩行はこのようになります。」という結果が得られても、ご本人の利益にはなりません。「関節のこの部分に多くの負担がかかっています。この部分の筋肉の力を増せば、負担が減っていきます。」など、患者さま個々にとって適切な示唆が必要です。当院の歩行分析は患者さまの手術前後やリハビリ訓練の中で活用されており、全国的に見ても数少ないものです。このような「分析結果の個別応用」をより一層進めていかねばならないものと考えています。

リハ工学科 菅野 達也
柏原 康徳

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